先生×卒業生・在校生座談会
鈴木先生×海獣トレーナー・水族館の飼育員として活躍中の卒業生
優雅さと迫力をあわせもつイルカショーや、ユニークな生態の魚たちが来場者を魅了する水族館。そこで働くトレーナーや飼育員は、裏方でもあり、主役でもあります。各地の水族館で活躍する卒業生が、生き物に接する楽しさ、学生時代に学んだこと、さらに膨らむ夢を鈴木倫明先生と語り合いました。
子どものころの感動と憧れが、夢に向かう原動力に
- マリンピア日本海 元館長・鈴木倫明先生
- 新潟市水族館マリンピア日本海の元館長(現参事)。
国内にある多数の水族館において
幅広い飼育・展示経験を持つ。
- 鈴木
- 最初に、みなさんが現在どんな仕事をしているか、働き始めてからどれくらいになるか聞かせてもらえますか。
- 川合
- イルカショーのチームで働いています。卒業してからの2年間は和歌山県の太地町にあるくじらの博物館で勤務、その後、いまの職場に移りました。この仕事を始めてからは約10年になります。
- 日暮
- 私は入社から2年目で、まだまだ新米のトレーナーです。イルカを担当しています。
- 大和地
- もうすぐ4年目になります。ひれ足類のアシカとアザラシのトレーナーです。
- 伊藤
- 11年目のトレーナーです。私もアシカとアザラシを担当しています。
- 加藤
- 入社後しばらくは、インフォメーション業務を経験し、その後から魚類とペンギンの飼育を担当しています。飼育歴は5年です。
- 鈴木
- まだ経験の浅い方から中堅の立場にある方まで、幅広い年代の卒業生に集まってもらったことになりますね。みなさんは、どんなきっかけで「水族館で働きたい」と思うようになったのですか?
- 川合
- 子どもの頃に見た、ショートレーナーの姿に憧れたのがきっかけです。水族館の業界では、こういう方は結構多いんじゃないでしょうか。
- 日暮
- そうですね。私もイルカショーに感動して、お客様に楽しんでもらえるトレーナーになりたいと思ったひとりです。いまはまだ、与えられた仕事をミスなくこなすことと、自分なりの工夫を加えることが目標です。
- 大和地
- イルカのロケットジャンプで宙を舞うトレーナーを見て、「あの人になりたい」と思いました。もともと水泳が得意だったので、さらにイルカも好きならこの仕事しかないと。現在の担当はイルカではありませんが、世界で唯一のアシカの水中ショーに関わることができて光栄だと思っています。
- 伊藤
- 私の場合は、イルカにふれてみたいという素朴な憧れが出発点でした。でも高校時代は、イルカのトレーナーになりたいというような人はいなくて、専門学校も近くにはTCAしか無かったので、周囲は「大丈夫?」という感じでした(笑)。
- 加藤
- 父の出身地に近いので、千葉県の鴨川シーワールドによく連れて行ってもらいました。そこでシャチのトレーナーに憧れたのがきっかけです。高校を卒業した後はいったん事務職で就職していたのですが、夢をあきらめきれずに入学しました。
- 鈴木
- 私が水族館に就職して間もないころの話ですが、部署によって、生き物を単に商品としか考えない職員がいることに気づいて驚いた記憶があります。みなさんが思い描いていた水族館のイメージと、職場としての水族館に違いはありましたか?
- 伊藤
- トレーナーも動物やショーのことだけを考えればいいわけではなくて、レストランなどを含めて、水族館全体をよりよくするためのアイデアを求められます。こうした仕事は学生時代には想像もしていませんでしたが、いまは面白さを感じています。
- 鈴木
- 水族館もさまざまな部署・部門から成り立っていますから、いろいろな視点を持つことは大切でしょうね。日々の仕事の中で、やりがいを感じるのはどんな時ですか?
- 伊藤
- 水族館で人気があるのは、やっぱり魚類とイルカ。そんな中で「アシカがかわいい」「アザラシのファンになりました」という声を聞くと、お客様の興味を広げるお手伝いができたのかなと嬉しくなります。
- 加藤
- 月並みかもしれませんが、飼育の担当として、新しい生命の誕生に立ち会ったときの喜びは大きいですね。
- 川合
- それに動物の意外な行動を目撃できるのも、この仕事の醍醐味だと思います。網の点検のために水中に潜っているときに、魚をおもちゃ代わりに遊んでいるイルカを見かけたのですが、トレーナーだからこそ出会える場面だと感激しました。
- 大和地
- 私はアシカの水中ショーで、本来の姿を見てもらえるのが嬉しいですね。アシカはもともと水中で活動する生き物ですから。ただ最近、壁も感じているんです。ショーの途中で動物が帰ってしまうこともあって。
- 伊藤
- あるある。わかるよ。
- 一同
- (笑)。
- 鈴木
- その壁をどう乗り越えてきたか、先輩に教えてもらいましょうか。
- 川合
- 僕の場合は、職場の先輩の仕事ぶりを観察して「こういう場合にはどうするか」という引き出しをたくさん用意することですね。そして、先輩も経験したことがない問題行動を動物が示したとしたら、「自分だけにこの表情を見せてくれたんだ」とポジティブにとらえるのがいいんじゃないですか。
- 大和地
- ありがとうございます。
- 伊藤
- 実は私、大和地さんとは以前もお会いしているんです。彼女の最初の実習先がうちの水族館だったので。壁を感じているという話も、同じ世界に入ってきてくれたんだなと嬉しい思いで聞いていました。先輩ぶってしまいましたね(笑)。つい最近、大和地さんが働く下田海中水族館から、私の勤務するあわしまマリンパークに、繁殖のためにアザラシがやってきたのですが、業界の仲間として情報交換できるのが楽しみです。
- 鈴木
- 卒業生が、水族館の枠を超えてチームになれるのは嬉しいことですね。
- 川合
- 時間がある時には他の水族館を訪れて勉強させてもらうのですが、この業界には卒業生が多いので、初対面の方でも話しかけやすいんですよ。
ユニークな授業や豊富な実習がすべて職場で生かされている
- 鈴木
- この学校での経験がいまの仕事に役立っていると感じることはありますか?
- 日暮
- 役に立っているのは英会話とコミュニケーションの授業です。いまの職場は観光地でもある登別なので、外国からのお客様も少なくありません。学生時代に1ヵ月間、ニュージーランドに留学したのも、英会話の授業で海外に興味をもったことがきっかけでした。留学中には、現地の水族館を見ることもできました。
- 川合
- 「アニマルアート」という授業があって、粘土でクジラを作ったりしたのですが、当時は「なんでこんなことをするんだろう」と思っていました。でも、現場では動物のわずかな変化を見極めるための洞察力が必要です。後になって「あの授業はこのためだったんだ」と思いました。
- 加藤
- この学校では、人前で話をする機会が多いですよね。いま、お客様を案内する際にあまり緊張せずに話せるのはそのおかげかもしれません。会社員を辞めて入学したこともあって、時間を大切に、とにかく好きなことをやろうと思って2年間を過ごしました。
- 大和地
- 座学の授業も大切ですが、やっぱり動物に接して初めて学べることはたくさんあります。TCAでは、3か月に1回は実習に行きますから、数多くの水族館を訪れることで、視野が広がったと思います。
- 伊藤
- 実習に関していえば、日本全国ほぼすべての水族館で実習できるのは強みですよね。就職につながることもありますし。私は学校ができたばかりの頃の卒業生で、実習先も限られていたので、後輩をうらやましく思うこともあります。先ほど卒業生同士のつながりの話がありましたが、長い歴史の中で生まれたネットワークも魅力のひとつだと思います。
- 川合
- 同級生にも大いに励まされました。同じ志を持った仲間がいるというのは、本当に心強いことです。
- 日暮
- 同級生の存在が心強いというのは私も同感です。仲間でもあるし、勉強・就職ではライバルでもありますから、負けたくないという思いで自分を発奮させていました。
- 鈴木
- 講師としては、私たちが携わっているのは自然科学であるということを、とくに伝えたいと思って授業に臨んでいます。例えば、「生き物とは?」のように難解な問いに対し、試行錯誤しながら答えを模索する過程を楽しんでほしいですね。
新しい水族館を目指して、まずは一歩ずつ成長することから
- 鈴木
- それでは最後に、これからの夢や目標を聞かせてください。
- 大和地
- とにかくいまの壁を乗り越えて(笑)、成長したいですね。「TCAを卒業して、下田海中水族館の一員として頑張っています」と、胸をはって言えるように勉強していきたいと思います。
- 伊藤
- 私の勤めている水族館では、これまで先輩が作り上げたものを引き継いで維持してきましたが、施設の老朽化や動物の高齢化などの問題も抱えています。いいところは残しつつ、新しい時代を作っていきたいと思っています。地元の伊豆を盛り上げたいという思いもありますし、たくさんの方に伊豆を訪れてほしいですね。
- 加藤
- 新しい時代の水族館を作るのが目標です。21世紀の水族館のあり方を考えて、実現していきたいですね。私は飼育担当ですが、展示の面で新しい刺激や、考え方を提案できればと考えています。そのためにも、まずはいまの自分の仕事を着実にこなしていこうと思います。
- 日暮
- 私の場合はまだできていない仕事もあるので、一通りの仕事を任されるようになることが最初の目標です。もう一歩先の大きな目標としては、私がスタッフに加わったことで、水族館に変化が起きたと思ってもらえるようになりたいと思っています。
- 川合
- お客様が見て、動物と気持ちが通じ合っているなぁ、と思われるトレーナーになりたいですね。また、同期の友人が大洗水族館で、マイルカ科のオキゴンドウクジラとアシカが一緒に登場するショーを行っています。これまで、イルカとアシカを一緒にするのは難しいという風潮があったのですが、いろいろな動物が一緒に出演するような独自のショーを構築していきたいですね。
- 鈴木
- 水族館は、人間が作り、コントロールできる環境の中で生き物を飼育し、その生きた姿を見せているところですが、自然は本来変化する環境です。みなさんには可能な限り自然環境にふれる努力をし、大いに感動する経験を重ねていってほしいと思います。そうした蓄積が、水族館の展示にも活かされていくのではないでしょうか。